
2004.01.12 |
| グァテマラの先住民が開発したコンピューター教材 上岡 直子 |
| (前回のコラム「米国NGOに勤めて三年の所感」) 11月半ばのある日、思いがけないうれしいニュースが飛び込んできた。グァテマラの先住民の子供たち向けに、その子供たちの言語と伝統文化を教える目的で、World Learningの二言語教育プロジェクトが開発したコンピューター教材が、ベスト40マルチメディアのひとつに選ばれ、国連のWorld Summit Awardを受賞することになったという知らせであった。 これを聞いたとき、同プロジェクトの教材担当コーディネーターの顔が浮かんだ。このコーディネーター自身、先住民マヤ・キチェ族の出身。先住民文化継承を可能な限り推進したいという自分の信念をかけて、自分の担当する教材開発の活動に、もくもくと打ち込んでいる人物である。小学校のクラス用に、子供たちが楽しみながらマヤの言語、文化、数学を学べるよう、遊びの感覚を取り入れた教材を次々と提案して、その独創性には皆常に感心させられていた。例えば、マヤの数学を学ぶための教材として、マヤの数表記が書かれたドミノやサイコロを取り入れるなどは、すべて彼のアイデアから始まったものだ。その彼が、プロジェクト・チームのIT専門家と一緒になって去年特に力を入れていたのが、マヤの言語と文化を教えるためのコンピューター・プログラムの開発であった。 グァテマラで彼と直接話す機会があったとき、彼はこう語っていたのを思い出す。このコンピューター・プログラムも、ゲームで遊ぶような感覚で、子供たちが楽しみながらマヤ言語や伝統文化を学習できるようにデザインされている。これにより、子供たちが自分達の文化に関する関心を喚起するきっかけになるとよいと思う。でも、それ以上に重要だと思っているのは、コンピューターをマヤ文化学習に取り入れるということ自体だ。マヤの人々や子供たちは、自分達の文化は劣っていて、時代遅れなものだして認識しがちである。マヤ文化の特徴や神話、宇宙観を、近代のテクノロジーを通じて子供たちに紹介することにより、自分達の文化に対する劣等意識が、少しでも緩和するのではないだろうか。それもあって、このソフトウェアをどうしても作りたかったのだ。(同コンピューター教材の内容に関しては、私の8月5日と9月22日付けのコラム、コンピューターが先住民の子供たちに広げたマヤ文化の世界に記述あり)。 前述のWorld Summit Award(WSA)は、12月10日から12日に開催の、国連World Summit on Information Societyの一環をなすもので、文化の多様性やアイデンティに焦点をあてた創造的なマルチメディア・プログラム40作が、イベントの当日ショーケースされる目的で、世界中800に及ぶ既存のプログラムから選ばれた。(詳しくは、www.wsis-award.org)。審査に通った40のプログラムを概観したところ、半分以上は欧米の国の作品で、アジアでは、中国やインドのようなIT大国が幾つか受賞、アフリカやラテンアメリカの国、またその中でもグァテマラのような貧しい国からの作品で受賞したものは、数えるほどしかない。それを考えると、本当に思わぬ快挙である。 そして、何よりもうれしいことは、このコンピューターの教材は、先住民自身が推し進めたものであるということである。現代を生きる若い世代のマヤ人であるコーディネーターの彼が、伝統文化と近代のテクノロジーの融合を試みた産物として、このコンピューター・プログラムができあがった。彼は、マヤの宗教と伝統文化を尊重し、その継続に力を注いでいるが、マヤの文化再興を提唱する先住民の間にまま見られる保守的立場−先祖伝来の文化遺産を再構築する−を守り抜いているのとは、また一種異なる。現代のテクノロジーを活用し、多文化の良い面も取り入れながら近代化を図り、それでもマヤの伝統を基盤にする社会を創り上げることが可能なのか、それを常に自分に問いかけているようだ。彼にとって、非欧米社会の日本が、伝統を保持しながら技術革新をはかり近代化を成した道筋が特に関心をよぶようで、会うたびに私にそれに関する質問を投げかけてくる。その姿から、彼が現代のマヤの人々なりの発展を一生懸命模索しているのだと、推し測られるのだ。 12月の2週目に、このコーディネーターは、WSAの受賞に立ちあうため、イベントの開催地であるスイスのジュネーブに旅立った。初めて欧州を訪ねる彼の目に、スイスはどう映ったのだろうか。彼のことだから、この経験も自分と同胞のマヤの人々に反映させて内省したに違いない。次回会ったときに、ぜひ聞いてみたいと思っている。 (バックナンバー) |
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