The Herbfarm

 

F=味, S=サービスの質, R=場所のロマンティックさ, C=値段

08/29/2002

F:★★★★

S:★★★★

R:★★★★

C:$$$$

 

 

 なんという至福、なんという口福…。

 やっぱりこのThe Herbfarm、アメリカでの僕の最高のレストランだ。

 

 The Herbfarmは予約を入れるのが結構大変。年に2度ある予約解禁日(4月と9月)は、その日から6ヶ月分の予約を受け付ける。誕生日や記念日など大切な日にここで食事をしたいならば、この予約解禁日に予約を入れることが必要。3時間くらいリダイアルしなきゃならないけどね。こ れがあるから予約を入れるのがほとんど不可能に近いように言われることもあるけど、食事したい日がフレキシブルなら予約は結構簡単。今回の予約は1週間前に入れてOKだった。

 

 ここで食事するときには、まず普通のレストランの概念を捨てなければならない。(通常は)9コース5ワインのご馳走は、夜の7時から始まり12時近くまで続く。この中で選ぶことのできるのは2つだけ。最初のスパークリングワインに入れるハーブの種類と、最後のコーヒーか紅茶の種類だけである。後は全て店任せ。だから好き嫌いの多い人や食べ物にアレルギーのある人にはツライかもしれない。

 

 ディナーが始まる30分前(6時半)に、The Herbfarmの前にあるハーブガーデンのツアーがある。オーナーの一人Carrieが客にハーブの匂いを嗅いでもらったりしながら、色々なハーブの説明をしてくれる。その日に使う予定のハーブの匂いを確かめながら、これがどんな素晴らしい料理に化けるかを頭の中で想像してしま う。

 

 さて、このツアーの後はいよいよレストランに入り5時間にも及ぶ「美食体験」の始まり始まり。とてもエレガントだけど、どことなく田舎町の豪邸のダイニングルームを思わせるような場所。ラスティックっていうのかな、所々に肩の緊張を抜いてくれるようなインテリアもあって、カチンコチンにならなくていい。あらかじめ名前の書いてある席に誘導されると、 ウェイトパーソンがシャンペングラスの中に入れるためのハーブの種類を聞いてくる。季節や日によって違うけど、この日の選択肢はRose Geranium、Lemon Verbena、Pineapple Sageの3種類。僕はPineapple Sageを選び、ウェイトレスがその葉をつぶしてグラスの中に入れてくれる。オレゴンのスパークリングワイン(1997 Argyle Brut)が注がれ、アペリティフのハーブ入りスパークリングワインの出来上がり。グラスを鼻に近づけるとPineapple Sageの香りがフワッとして、その後のくっきりとしたスパークリングワインの味を何倍にも増幅してくれる。 これ、今度ウチでディナーパーティーでも開くときにやってみたい演出だな。

 

 しばらくアペリティフを楽しんでいると、"Treasures of High Summer"と名づけられた最初のコースが運ばれてきた。

 

"真夏の宝物"

トマトとマスクメロン、ミントのカクテル

エビのローズマリー串刺し

キュウリのGelée、キャビア添え

 

 綺麗なカクテルグラスに入った透明なトマトの出汁の中を、プチトマトと、それと同じ大きさに切ったマスクメロンが泳いでいて、その上にミントの葉っぱをすごく細かく切ったものがかけてある。トマトの出汁にミントの爽やかさが加わって、一口食べる毎に涼しげな夏の風景が目の前に広がるようだ。 トマトとメロンがこんなに合うものだとは知らなかった! 手前にあるのが、Alaska Stripe Shrimpというエビをローズマリーの枝で串刺しにして調理したもの。ローズマリーのいい香りがエビの内側から染みこんでるみたい。ハーブの入ったちょっとマヨネーズっぽいソースをつけて食べるともう感無量。これもアピタイザーらしくとても軽く仕上げてある。エビの隣りにあるのは、キュウリのGelée。日本語で何ていうのかわからないけど、ネットリとしたキュウリのスープみたいな感じ。それにヘラチョウザメ(Paddlefish)という、チョウザメの親戚の魚のキャビアが乗っけてある。さすがにチョウザメのキャビアには及ばないものの、こういう付け合せにはこれで十分。キュウリの胸がすくような香り一杯のGeléeにキャビアの塩味が加わって、これまたピアノとバイオリンの協奏曲といった感じ。この3品、確かに「真夏の宝物」と呼ぶのに相応しい、とても軽くて爽やかなアピタイザー。今まで以上にお腹が空いてきてしまう。

 

 このアピタイザーを食べている途中に、オーナーのRonとCarrie、それにシェフのJerry Traunfeldが出てきて、今日のメニューの紹介をしてくれる。The Herbfarmではだいたい1〜2週間毎にメニューのテーマが変わるんだけど、今回のテーマは"Rogue Bins & Bottle Booty"。僕がまだ体験したことのないテーマだ。Ronが言うには、ワイン・テイスティングも含めたようなメニューで、いつもは5種類のワインが出てくるんだけど、今回は2種類多い7種類のワインを美味しい食事と一緒に味わえるんだという。う〜ん、楽しみ!

 

 さて、次のコースは"Corn Soup with Smoked Mussels With Chantrelle and Basil Beggars Purse"、いわばスモークされたムール貝の入ったコーンスープ。シャントレル・マッシュルームも入ってるし、真ん中にはパリパリの皮に包まれたバジル入りの「巾着(purse)」。このスープ、スイートコーンを使っていて、砂糖は一つまみも使ってないと思うんだけど、とても甘い。ムール貝と一緒に食べると、スープの甘さのせいでムール貝の味がくっきりと浮かび上がってくる。一緒に入ってるシャントレル・マッシュルームも同じようなスモーキーな風味、でもムール貝とは違った印象。真ん中の巾着を突き崩して食べてみると、バジルと…あれはナスか何かかな、みじん切りにしたものが入っていて、これもスープと一緒に食べると、また違った味わいが楽しめる。まるで一つのスープで、味の種類の限界に挑戦しているような雰囲気。

 

 これと一緒に運ばれてきたワインは、2000 Elemental Cellars Pinot Blancと、2001 Amity Vineyards Pinot Blanc。前者の方はとてもすっきりした味わいで、新鮮な草のような香りとキリリと引き締まったボディが甘いスープによく合った。後者は僕も以前ここで飲んだことのあるワインで、リンゴとハチミツのような香りと、軽いけど背骨の通った味わい、すっきりとした後味と、大好き3拍子の揃ったもの。僕はどっちかっていうとAmityの方が好きだったな。Elemental Cellarsの方は、ちょっとこってりとしたアピタイザーに合うかもしれない。

 

スモークされたムール貝入りコーンスープ

 

 お次のコースは、"King Salmon in Squash Blossoms With Lemon Thyme-Sorrel Sauce and Zucchini Strands"。カボチャの花でサーモンを包んで、低温でじっくりと時間をかけて調理したもの。このカボチャの花は風味をつけるために使われるみたいだけど、出来上がる頃にはほとんど溶けちゃって原型を留めてないんだよね。低温で長時間調理したサーモンは、どこを切ってみても本当にジューシー。ドライな場所が一つもない。まるで生のようだけど、ちゃんと全てに火が通っていて美味しさが活性化してる。これにレモン・タイムとSorrelという植物から作られたちょっと酸味のあるソースをつけて食べる。うーん、調理法一つ、ソース一つで、ただのキングサーモンがこの世で最高の魚に生まれ変わってしまう。下手なレストランで出されるCopper River King Salmon(5〜6月しか食べられない最高の味とされるサーモン)よりも百倍美味しい。サーモンはシアトルでは珍しくもないありふれた魚なんだけど、まだまだいろんな可能性があるんだなって感心してしまう。カボチャの花は確かにサーモンにへばりついてはいるんだけど、これがいかなる風味をサーモンにつけてたかってのはちょっと不明。これナシで調理されたサーモンと食べ比べてみるとわかると思うんだけどね。今度また行ったときに、カボチャの花の役割りをシェフに聞いてみよう。

 

 この素晴らしいサーモンにつくワインは、2001 Elk Cove Pinot Gris。今まで出されたワインよりもちょっとだけ甘味があって、でもデリケートなサーモンの風味を壊さないようなとてもすっきりした味わいで、これがソースの酸味と最高にマッチしてる。サーモンの後にワインを飲んでも、魚臭さを微塵も感じないってのはスゴイ。

 

カボチャの花で包まれたキングサーモン

 

 The Herbfarmは何度も来たことがあるけど、ここでラザニアを出されるってのは初めて。といっても重くないように、そして色々な味を楽しめるようにってことで、ラザニアのスライス、しかもその中には色々なものが入ってる。"Summer Lasagne of Golden Beets, Fennel, Leeks, Eggplant and Goat Cheese With Tarragon Sauce"だって。大きく切って口に含んでもいいけど、一層ごとに味の違いを楽しむってのもアリ。僕はこの具の中ではEggplantが一番好きかもしれない。茄子とは思えないような、なんとなくマッシュルーム的な味の層。山羊のチーズも味がキツイかと思いきや、匂いが他の材料によって抑えられていて、チーズの美味しい味だけが舌に残る感じ。全部の層を一度に食べてみると、もう口の中はオーケストラ。本当に様々な味が感じられるんだけど、それが喧嘩せずに見事に調和してるんだよね。やっぱりプロの技だよなぁ。偉大なアーティストに感服。

 

 このラザニアには2種類のロゼがついてきた。The Herbfarmでロゼを飲むなんて初めてかも。あまりロゼワインにはいい経験がないもんだから、最初は「ええ?ロゼぇ?」とか思ってたんだけど、うーむなかなか、いやどーしてどーして。2001 McCrea Cellars Rhone Roséと、2001 Chinook Winery Cabernet Franc Rosé。どちらもすっきりさっぱりした味わいで全然甘くなく、ロゼに対する概念を覆されてしまった感じ。どちらも好きだったけど、僕はどっちかっていうともう一方よりもボディがあって、Rhoneワインの魂が感じられるMcCreaの方がお気に入りだった。

 

"サマー・ラザニア"

 

 お次はPalette Cleanser。次のメインディッシュに備えて、口の中の味を洗い流しましょうというコース。"Akane Apple and Perilla Sorbet"。「アカネ」というリンゴのシャーベットの上に細切りのリンゴが置いてあって、その上になんと赤シソの千切りがかけてある。リンゴとシソぉぉ? 想像もつかない組み合わせだよね。リンゴのシャーベット自体は、お約束通りフルーティーで、でも今までの味を洗い流してくれるような、ちょっと強い風味。これを赤シソと一緒に食べてみると…。日本の赤シソよりも全然風味が強くない。だからなのかな、シャーベットの味の中に、ちょっとだけ郷愁を誘うような風味を加えてくれる。なかなか面白い。まさにPalette Cleanserとしてはピッタリ。ただ一つ難点は、リンゴの細切りがちょっとだけドライで、なんとなく大根の千切りのように思えてしまったこと(笑)。まあご愛嬌。

 

「アカネ」リンゴのシャーベット

 

 今回のメインディッシュはアヒルの胸肉。"Lavender Crusted Muscovy Duck Breast with Wild Huckleberry Sauce, Runner Beans, Spinach-Confit Strudel"。外側にラベンダーを擦り込んで調理してあって、ハックルベリーのソースがかけてある。その向こうに見える春巻きみたいなものは、ほうれん草とマッシュルームを炒めたものを中に詰めてあるストゥリューデル。ま、洋風春巻きですね。んー、アヒル最高! 中華で食べるアヒルとかってかなり匂いのキツイものが多いんだけど、これは全然獣臭くなくて柔らかくてジューシーで、もう良いところばかりの肉。胸肉っていうとドライな印象があるんだけど、これはそんなことは全然ない。ハックルベリーのソースをつけて口に入れると、ハックルベリーの甘い味と肉の外側についてるラベンダーの香りが広がって、口の中がとてもフルーティー。そこで肉を噛み締めると美味しい肉汁が出てきて…。ああっ、一口一口感動してしまう。神様、仏様、Jerry Traunfeld様、ありがとおぉぉ! ほうれん草のストゥリューデルも、このままで一つのコースになってしまいそうな味の完成度。これを付け合せに使っちゃうなんてスゴイよなぁ。

 

 この素晴らしいアヒルの肉に合わせたワインは、1999 Broadley Vineyards Pinot Noir, Claudia's Choice。これはBroadley Vineyardsのワインの中でも、特に選びぬかれたワインらしい。ワインの雑誌でいつも100点満点で97点ほどをマークしているそうな。なるほどわかる気がする。なんとなくポートワインを思わせるような香りに始まって、フルーティーなんだけどとても力強い自己主張のあるPinot Noir。Pinotでこんなに力強いのって珍しいと思う。Santa FeのThe Old Houseで出されたPinot Noirも力強かったけど、あれはどっちかっていうとSyrahを思わせたもんね。このワインはPinot Noirの性格をそのままに残しながら、それをもっと美味しくしましたって自信が溢れてる感じ。これとアヒルがよく合うんだわ、これが。

 

ラベンダーを擦り込んだアヒルの胸肉

 

 さてメインディッシュに感動した後は、チーズとサラダのコース。"Sally Jackson Guernsey Cow Cheese with an Herbfarm Salad"。サリー・ジャクソンのチーズはHerbfarmでの定番。いつもは山羊のチーズとかを出してたんだけど、今回は牛のチーズ。それも混ぜ物なし、ある一頭の牛のミルクからのみ作られたチーズ。だからそんなに量は作れないらしい。本当に濃い味で、チーズ好きの僕には堪えられない美味しさ。ハーブファームサラダは、Herbfarmのガーデンに生えている様々な野菜やハーブ、それに食用の花なんかをにドレッシングをかけてあって、でもドレッシングでベタベタにならないように、水切りをしてある。こうすることによって、ドレッシングの味が前面に押し出されることはなく、葉の表面をうっすらとドレッシングが覆っている感じ。オリジナルの野菜やハーブの味を楽しめるという寸法。このサラダ、本当に軽くて大好き。花びらがとてもキレイだし、いろんな味が詰まってる感じだし。サラダはあまり食べない僕だけど、こんなサラダだったらいくらでも食べられると思う。

 

サリー・ジャクソンのチーズとハーブファームサラダ

 

 いよいよデザート。"フルーツ三部作(A Trilogy in Fruit)"と名づけられたこのデザートセットは、Peach and Anise Hyssop Ice Cream Cone、Plum and Orange Thyme Tart、Raspberry Soufflé with Rose Geranium White Chocolate Sauceの3品。アイスクリームはアニスの香りが強いんだけど、それが桃の味とマッチしてとてもグー。プラムとオレンジタイムのタルトは、美味しいことは美味しいんだけど、ちょっとプラムが僕には酸っぱすぎるかな。感動したのが、ラズベリースフレ。これは真ん中にスプーンで穴を開けて、手前に付いてるローズジェラニアムっていうハーブとホワイトチョコレートから作られたソースをその中に入れて食べる。口に入れた瞬間、ホワイトチョコレートの味とラズベリーの味がフワフワのスフレから染み出してくる。ここではいろんなスフレを経験したけど、ラズベリースフレはその中でも僕の最高のお気に入りかもしれない。とにかく素晴らしい!

 

"フルーツ三部作"

桃とアニス・ヒソップのアイスクリーム

プラムとオレンジタイムのタルト

ラズベリースフレと

ローズジェラニアム/ホワイトチョコレートのソース

 

 最後にコーヒーか紅茶の種類を選んで(僕は"Peppermint Herbal Infusion"っていうペパーミントの純粋なお茶にした。カフェインなしでスッキリしてて美味しい!)、最後に"A Selection of Small Treats"というちょっとしたお菓子のお皿と一緒に、最後の贅沢、Vintage 1875 Barbeito Malvazia Madeiraがグラスに注がれてやって来る。1875年モノだよ! Herbfarmではいつも1910年前後のマデイラ酒を出すんだけど、今回のような19世紀のマデイラを飲むのはこれでたった2回目。さすがに熟成した甘い香りは5時間の美食体験を締めくくるのにピッタリだ。Herbfarmではいつもアメリカ北西部の材料を使うんだけど、このマデイラだけは例外。でもオーナーのRonに言わせると、マデイラ酒はアフリカ大陸の北西部からやってきたモノなので、メニューに入れてもOKとのこと。説明を受けてみんな大爆笑してしまう。手作りのお菓子をつまみながら、マデイラを飲んだりペパーミントティーを飲んだり…。一緒に行った人たちとの話も弾んで、本当に今夜のHerbfarm体験も最高だった!

 

"A Selection of Small Treats"

 

 このThe Herbfarm。予約が取りにくいということと、値段が高い(税金とチップ込みで一人$200以上)ということから、なかなか行く勇気が出ない人が多いみたいだけど、一度でもいいから、特別な日にでも行ってみてほしい。「レストラン」という概念が根底から覆されてしまうような、とても素敵な夜を過ごせると思う。The Herbfarmの食事によって、どんなに心が豊かになるか、ぜひとも体験していただきたい。本当に心から、シェフJerry Traunfeldに脱帽です。